DV被害者が自分自身を取り戻せる支援をしています

DV被害者が自分自身を取り戻せる支援をしています

「無能だと怒鳴られ、子供を取り上げると脅され、床に押し付けられるたび、仕方がないことなんだと無力になると同時に、日本で父が母にしていた光景が鮮明に蘇りました。頭の片隅では、夫のしていることが間違ったことであると分かっていました。そう、ちゃんと分かってはいたのです。ただ、自分がドメスティックバイオレンスの被害者であるという認識はありませんでした。考えたくもなかったですし、知りたくもなかったです。自分が母と同じ状況にいるのを認めることが、怖かったんです」

 かなこさん(仮名)は、日本で生まれ育ちました。子供の頃、特にこれといった理由なくいじめを受け続け、自宅では父親が日常的に母親に暴言を吐く姿を見て育ちました。現実を避けるかのように、かなこさんの目は常に無限の可能性を秘めた外の世界に向けられ、高校を卒業後に渡米を決意。大学でのちの夫となるジョシュ(仮名)に出会いました。

 まもなくして長女、そして長男を出産します。しかし、仕事が長続きしないジョシュの性格から、2人の生活は不安定で、経済的に厳しいものでした。かなこさんが子育てに没頭する間、移民ステータスもIDも切れてしまいました。延長手続きをお願いしても、ジョシュはいつも何かと理由をつけ先延ばしにし、気付いた時にかなこさんは社会から孤立し、再び「小さな世界」で身動きが取れない状態になっていました。

 2人が最終的にたどり着いたのは、ホームレスシェルターでした。ジョシュが仕事でシェルターを離れていたある日、同じシェルターに滞在していた女性がかなこさんに話しかけてきました。「ねえ、あなた虐待されているんじゃない?」。かなこさんは驚き、即否定しました。しかし女性は、「あなた、虐待されているわ。昔の私を見ているようだもの。夫がいる時、あなたは決まって下を向いているのに、彼がいなくなると顔が明るくなるの」。

 その日以来、かなこさんは自身に問いかけ続けました。「これは虐待なの?私は被害者なの?」「いや、そんなはずはない。だって、実家で嫌という程見てきたじゃない。それが嫌で、家を飛び出したんたんだから」。かなこさんにとって、虐待を受けていること、また自身が被害者であると認めることは、長く、暗い、葛藤でした。

 かなこさんはシェルターでカウンセリングを受け始めました。最初のセッションで「調子はどうですか?」と尋ねられた時、「2人の子供達も環境に慣れはじめ・・・」と答え始めると、カウンセラーが遮るように、「かなこさん?私は、あなたの調子を聞いているのですよ」と言いました。 かなこさんは、自分の調子がどうか答えられませんでした。この時、今まで自身を大切にしてきていなかったことに、初めて気づいたのでした。

 かなこさんが自身を取り戻し始めると、ジョシュは次第に距離を置くようになり、シェルターに戻ってこなくなりました。2人の幼子を抱え、かなこさんはシェルターに取り残されてしまいました。シェルターでの滞在期日が迫る中、住宅状況の情報を得るためリトル東京サービスセンターに連絡しました。

 LTSCのスタッフが情報を提供する中で、かなこさんが身分証明書も、運転免許証も、また移民ステータスもないことを知ると、スタッフは即ドメスティックバイオレンスの可能性を疑いました。LTSCのソーシャルワーカーが時間をかけかなこさんの話に耳を傾け、カウセリングの予約を入れるとともに、移民専門の弁護士の情報を照会しました。

 LTSCでのカウンセリングを通じ、自身が虐待を受けていたこと、そして被害者であったことを学びました。長い時間をかけこの事実を受け入れることができましたが、その道のりは決して容易ではなく、とても厳しいものでした。「(事実を受け入れるのは)とてもしんどかったです。実家で起こっていることが嫌で故郷を離れたのに。父親のせいで結婚しないと決めていたのに、父親と似た人、いやそれ以上に悪い人と一緒になってしまった」

 子供達に父親はもう戻ってこない旨を説明すると、長男がこう言いました。「ママ、パパが戻ってこないのは寂しいけれど、ちょっと安心した。だって僕、いつかパパがママを殺してしまうんじゃないかと思っていたから」。長男の言葉は、かなこさんの心に激しく突き刺さりました。これを機に、この悪循環を完全に断とうと固く決意したのです。

 事実と向き合い、受け入れることができたことで、人生の歯車が徐々に噛み合い始めました。子供達とともにLTSCが運営するトランジショナルシェルター「コスモス」に入居し、そこで自身と子供達をどう大切にすべきかを学びました。かなこさんは常に自身の行動に責任を持ち、将来のために節約し、子供たちのために心身ともに健全な状態を保てるよう、日々努力を続けました。LTSCの支援を受け、変化への対応力、判断力や決断力を身につけ、子供たちの学校を探し、子育てにも懸命に取り組み、運転免許証も取得し、車を購入し、仕事も見つけました。

 「コスモス」を出た今、かなこさんは子供たちとアパートに暮らしています。現在は仕事をしながら資格を取得するために学校へも通っています。学校の申し込み用紙に記入した際、初めて現在のアパートの住所を記入しました。もう、住所欄の「ホームレス」という箇所をチェックする必要はないのです。自身を誇りに思うとともに、ポジティブな力が湧いてきました。

 多くの困難を経験したからこそ、かなこさんは些細なことに喜びを感じられるようになりました。「子供たちを連れてマクドナルドでハッピーミールを買えること、また子供たちが寝た後にあるほんの少しの自分の時間、これらは何ものにも変え難い貴重な時間です。長いこと私は自分のことをないがしろにしてきました。LTSCをはじめ、シェルターで出会ったカウンセラーやソーシャルワーカーのお陰で、セルフケア(自身を大切にすること)の大切さを今は理解できます。今は週に一度、頑張った自分へのご褒美として、仕事終わりに美味しいアイスコーヒーを楽しんでいます。また、困った時に助けを求めることの大切さも痛感しました。今の私があるのは、多くの方に助けていただいたからです」

*個人名はプライバシーの保護から仮名を使っています。

10月は、全米ドメスティックバイオレンス(DV)認識月間です。DVは性別、人種、宗教、地位などにかかわりなく、すべての人に影響します。DV支援団体「the National Coalition Against Domestic Violence」の調査結果によると、全米では1分間に約20人が身体的暴力を受けており、1年間に換算すると1,000万人以上の人が暴力を受けていることになります。

 LTSCでは、日本政府と協力し、DVを受けている日本人被害者を対象に支援を提供しています。もし、現在DVの被害を受けている、または受けている人を知っているのであれば、LTSC213-473-3035)までお電話ください。または、全米ホットライン1-800-799-7233、センター・フォー・パシフィック・アジアンファミリー1-800-339-3940で、日本語の通訳をつけてお話することもできます。

 

ニュースレター「春夏秋冬」2019年秋号 に掲載されました。