日本旅行者の素朴な行動が思わぬ展開に

日本旅行者の素朴な行動が思わぬ展開に

「日本から一緒に旅行に来た友人が、2日前から行方不明なんです。電話もつながらないし、テキストを送っても既読にならないんです。彼は英語ができないし、今回が初めてのアメリカ旅行なのでとても心配です。どうしたらいいですか。助けてください」

ー斉藤健二さん

昨年8月、日本からの旅行者、斉藤健二さん(仮名)がとても心配した様子でLTSCを訪ねて来ました。2日前の夜9時に、ダウンタウンのLAライブ前で友人の松田孝さん(仮名)とはぐれてしまったといいます。松田さんが先にウエスト・ロサンゼルスにあるAirbnbに戻っているかもしれないと滞在先に戻ってみたところ、松田さんはおらず、彼の所持品がそのまま部屋に残されていました。以来2日間、斉藤さんは毎日テキストメッセージを送り続けましたが、それらが既読になることはなく、松田さんからの連絡は一切ありませんでした。

オフィスで対応したLTSCのソーシャルワーカーは、行方不明者届を出す必要性を伝えました。斉藤さんも英語が得意ではなかったため、ソーシャルワーカーは警察に伝えるべき内容や手順を分かりやすく伝え、松田さんの容姿や行方不明になった際の状況などをすべて英語で書き出し、近くの警察署までの地図を描いて斉藤さんに持たせました。斉藤さんは数日後に帰国を予定していたので、ソーシャルワーカーは在ロサンゼルス日本国総領事館にも連絡し、協力を仰ぎました。

何の音沙汰もない日が続いた9月、突然、松田孝さんを名乗る日本人男性がLTSCを訪れてきました。斉藤さんの対応をしたソーシャルワーカーが松田さんの名前を覚えており、この約1カ月間どうしていたのか尋ねると、松田さんはまず、「自分が無事に生きていること」、そして「多くの方に多大なる迷惑をかけ申し訳なく思っていること」を伝えに来たと話しました。

その後、彼がこの1カ月間どのような状況にあったのかを聞いたLTSCのスタッフは、大きな衝撃を受けました。なんと、強盗未遂の疑いで刑務所に入っていたと言うのです。

松田さんの話では、LAライブ前で斉藤さんとはぐれてしまった夜、道に迷い、多くのホームレスが寝泊まりする暗い裏道に迷い込んでしまいました。怖くなった松田さんはその場から走って逃げたのですが、その際にポケットにあった携帯電話とパスポートを落としてしまったと言います。その後、通りすがりの女性に携帯電話を借りようと話しかけますが、英語ができないため、ジェスチャーと知っている単語でコミュニケーションを図ろうとしたところ、女性は松田さんが強盗だと勘違いし、警察を呼んでしまいました。

松田さんは手錠をはめられ、刑務所に約1カ月間投獄されることになったと言います。刑務所に入って2週間ほどが過ぎた頃、同房の男性が係員に松田さんが日本語しか話せないと伝えてくれ、松田さんは日本語を話す係員を通じ、無事に家族に電話をすることができました。同時に、刑務所からロサンゼルスの総領事館にも連絡がいき、総領事館は松田さんと連絡を取ることができるようになりました。

総領事館職員が松田さんの法廷審問に付き添い、必要な支援を提供。審問で松田さんの疑惑が晴れ、松田さんは9月に刑務所から解放されました。最初に拘束されてから約1カ月後のことです。その後、総領事館のサポートを得て、松田さんは無事に日本へ帰国し、家族との再会を果たしました。

LTSCでは、英語を得意としない人の支援をできる範囲内で提供してきました。このケースは言葉の壁の問題がもたらした極端な例ですが、言葉の壁により受けられるべきサービスが受けられない、また与えられるべき権利が与えられないといったサービスの溝を埋める活動がいかに大切かということを再確認させられるケースであったと考えています。LTSCでは、今後も社会福祉サービスを必要としている方々の支援に尽力していく次第です。

 

ニュースレター「春夏秋冬」 2019年春号 に掲載されました。